
過去の体験談、私はまたもや大事な仕事を前に、重い心で机に向かう。管理するアパートの一室。そこに住む住人が、もう三ヶ月にもわたり家賃の支払いを滞らせているのだ。最初は忘れたのかと思い、一度目の連絡を入れたが返答はなく、二度目、三度目と重ねても状況は変わらず。心配と苛立ちの間を揺れる毎日だ。
今日こそは直接連絡をして、誠意ある対応を求めなければならない。滞納を放置するわけにもいかないし、他の住人との公平性を保つためにも対応が必須だ。しかし、どの言葉を選べば相手に負担を与えず、なおかつ自分の立場を伝えられるのか──。それが、この仕事の一番の難しさだ。
携帯を取り出し、深呼吸をしてから電話番号を押す。心臓がドクドクと高鳴る。何度かのコール音の後、ついに住人の声が聞こえた。「お世話になっております。こちら、物件管理を担当しております○○リアルエステートでございます。」なるべく穏やかで誠実な声を心掛けながら話を始めた。
結果として、住人はやはり困窮している状況にあることを打ち明けてくれた。私は感情的にならずに事情を聞き取り、分割払いの提案を行った。住人も納得し、今後の対応について合意を得ることができた。電話を切った後、私は少し肩の力が抜けた気がした。督促とは単なる請求ではなく、人と向き合う行為なのだと改めて感じた瞬間だった。